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第四章

カオス・マトリックス
~CHAOS MATRIX~

中部の黄金地帯を抜けた先で、世界の色が変わった。
そこは、笑いと畏怖、そして「濃すぎる個性」が渦巻く混沌の都だった。

「飴ちゃん食べるか? パインアメやで!」

先陣を切ったのは、大阪の『飴ちゃん配りのオカン花子』。
ヒョウ柄のスカートを翻し、断る隙を与えずに飴を投げ込んでくる。
「いりません」と言おうものなら、ドアを叩きながら三時間の説教コースだ。

その喧騒を、冷ややかな視線が貫く。

「……おや、どちら様どすか? うちは一見さんお断りどすえ」

京都の『一見さんお断りの京美人花子』。
能面のような美しさで結界を張り、礼儀知らずな余所者を「いけず」な言葉で精神的に追い詰めていく。
その横では、奈良の『大仏殿の鹿使い花子』が、虚ろな目で鹿せんべいを要求し、従わない者を無数の鹿の霊体で包囲していた。

「カオスだ……情報量が多すぎる……」
東北の『ギガビット花子』が処理落ちしかけた、その時。
暗闇に強烈なスポットライトが降り注ぐ。

『清く、正しく、美しく、そして死ぬほど華やかに』

大階段の上から、兵庫の『宝塚大階段のトップスター花子』が降臨する。
背負った巨大な羽根(シャンシャン)が物理的に幅を取りすぎて、
トイレの個室に絶対に入れないという矛盾を抱えながら、彼女は最強の流し目を送った。

『ようこそ、"あの世"という名の楽屋へ』

商魂、伝統、エンターテインメント。
関西のエネルギーは、物理法則すらねじ曲げる。

だが、西の空から、さらに古(いにしえ)の気配が漂い始める。
神話の時代から続く、神秘の風が吹き抜けた。